償却の開始時期(IAS16・IAS38)

企業会計

IFRSでは、固定資産(有形固定資産や耐用年数を確定できる無形資産)は、資産が使用可能な状態に成った時点から償却を開始する必要があります。(有形固定資産:IAS16.55、無形資産:IAS38.97)

よって、必ずしも実際に使い始めた時点から償却を開始するとは限らないことになります。

日本の会計基準や法人税法では、資産を実際に使用開始した時点(=事業供用日)から償却を開始するとされており、資産によっては、IFRSと日本基準・税務とで償却開始のタイミングにズレが生じることになります。

たとえば、資産が使用可能な状態に成った日が事業供用日より3ヶ月早ければ、IFRSでは日本基準・税務に比べて3ヶ月早く償却が始まることになり、GAAP差異となります。

固定資産の出入りや償却費の計算は、ERPの固定資産モジュール等のシステムで自動化しているケースが多いと想定されますので、システムにIFRSと日本基準・税務の計算ロジックをどのように設定するのがよいか考えてみたいと思います。

システムが、1つの資産に対してIFRSと日本基準・税務の2つの異なる償却開始日からの償却計算を走らすことができ、IFRSと日本基準・税務のそれぞれの総勘定元帳に自動で転記される仕組み(複数帳簿制)になっていれば、償却開始時点のズレの管理はシステムが担ってくれることになります。

一方で、システムの仕様として、1つの資産に1つの償却開始日からの償却計算しか持てない場合には、IFRSと日本基準・税務のうちいずれの計算ロジックをシステム化するかを決める必要があります。

この場合の選択肢は、大きく分けると、以下の2つ(①・②)になろうかと思います。

<固定資産システム設定の選択肢>
① 日本基準・税務の計算をシステムに設定
システム上は日本基準・税務の計算を実施し、連結決算時に日本基準・税務→IFRSの調整を反映する方法になります。

なお、対象件数次第ではありますが、たとえば固定資産のアイテム数が10個であれば、決算時のIFRSへの調整はExcel等でのマニュアル計算での対応も可能と考えられます。

また、法人税の申告書は、減価償却費の別表(別表16関連)を作成する必要がありますが、この別表を日本基準の帳簿から自動作成しているような場合には、①の設定を採用するメリットがかなり大きいと思われます。

② IFRSの計算をシステムに設定
システム上はIFRSの計算を実施し、単体決算・税務申告時にIFRS→日本基準・税務の調整を反映する方法になります。

この場合、固定資産の増減明細表や法人税の別表16は、システムから抽出したデータにIFRS→日本基準・税務の調整を加味してマニュアル作成することになり、調整の対象件数がかなり多い場合は工数増となるケースも考えられます。

IFRSと日本基準・税務での複数元帳が保持できる場合は、償却開始タイミングのズレの調整・管理が最もスムーズに行くと思われます。

これに対して、単一元帳となる場合には、固定資産システムは日本基準・税務用の設定として、別表16はシステムの力で極力自動作成できるようにしておき、連結決算時にIFRS用の調整を反映する方式(上記①)としたほうがよいと思われます。

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