資本コストや株価を意識した経営
2023年3月に、東京証券取引所は、プライム市場とスタンダード市場への上場企業(約3,300社)を対象に、PBR(=株式時価総額÷株主資本、Price Book value Ratioの略)やROE(=純利益÷株主資本、Return on Equityの略)などの改善計画の策定・開示等を要請しました。
各企業・経営者の資本コストや株価に対する意識改革を行うことで企業価値向上を実現することが期待されています。
東証公表の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」の資料によりますと、プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場企業が、PBR1倍割れ、ROE8%未満となっており、資本収益性や成長性に課題があるとされています。
PBRやROEを改善して資本収益性や成長性を高めるための着眼点や方策について、当パートで考えてみたいと思います。
PBRやROEの改善策
PBR=PER×ROEとして分解できるため、「PER(=株式時価総額÷純利益、Price Earnings Ratioの略)」や「ROE」が上がれば「PBR」も上昇する関係にあることに着目すると改善策を考えやすいといわれています。
とりわけ、「PBR」と「PER」の双方の財務指標に含まれる”P”の株価向上のための着眼点や方策の検討から入ると比較的とっつきやすいように思いますので、そのアプローチで整理してみたものが下表となります。
●株価向上のための着眼点・方策とPER/PBR/ROE影響
この整理で見えてきたキーワードは、『成長力』、『収益力』、『魅力的な配当政策と配当額』、『財務健全性』、『非財務の取り組み』、『キャッシュ・フロー経営』の6つになります。
これら6つのキーワードと株価上昇・企業価値向上との関係性について、以下にて述べさせていただきます。
●6つのキーワードと株価上昇・企業価値向上との関係性
1)『成長力』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:1 , 2
企業の成長力は、売上や利益が伸びていることで示すことができると考えられます。
たとえば、売上や営業利益の金額が長期間(EX 10年間程度)に渡って上昇傾向にある会社は、高い成長力があることを示せているため、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。
2)『収益力』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:3 , 5
企業の収益力は、資本収益性や利益率が高いことで示すことができると考えられます。
たとえば、「ROIC>資本コスト」や高い営業利益率(EX 10%以上)を複数年に渡って継続できている会社は、高い収益力があることを示せているため、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。
3)『魅力的な配当政策と配当額』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:4
配当政策が魅力的で、株主にとって納得感のある配当額を継続できている会社は、株主との関係が良好であると考えられるため、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。
4)『財務健全性』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:6 , 7
企業の財務健全性は、自己資本比率や流動比率が高いことで示すことができると考えられます。
高い自己資本比率や流動比率を継続できていれば、財務が健全であることを示せているため、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。
5)『非財務の取り組み』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:8 , 9
事業ど真ん中の活動だけでなく、環境や社会を保護・保全する活動にも注力している会社は、持続可能な社会の実現(サステナビリティ)に向けて積極的であることを示すことができるため、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。
6)『キャッシュ・フロー経営』・・・株価向上の着眼点・方策の該当No:10
フリーキャッシュフロー(FCF)を毎期安定的に創出する会社は、配当や自社株買いの余力が十分であることをアピールして株主との良好な関係を築きやすくなることから、今後の株価上昇・企業価値向上が期待できます。